昭和40年代初めでしょうか。キリンビールのレトロな灰皿です。懐かしいデザインです。ビールと言えばキリンビールだった時代です。
お使いに行かされたのは,小学生の頃。夕方になって,母親が一升瓶の中の日本酒の残りが少なくなっているのに気付いたとき。いつも五合瓶を買いに行かされました。
踏み切りを渡り,小さな路地を抜けたところに酒屋がありました。小さな酒屋には木でできたカウンターがあって,まだ外は明るいというのに,いつも一人か二人のおじさんが,小皿の上の透明のグラスになみなみと注がれたお酒を,こぼれないように気をつけながらすすっていました。そのカウンターの上に置かれていたのがこの灰皿です。

私は二級の五合瓶を両腕で抱えるようにして,来た道を戻ります。恐れたのは,途中で知らない犬に会うことです。あの頃は野良犬がまだたくさんいました。犬に噛まれることなど珍しくありませんでした。私は五合瓶を抱えたままでは野良犬から逃げきれないと思っていました。さらに顔見知りの野良犬の中にもたいそう性格の悪い奴が何匹がいました。そいつに会うと,私は知らぬふりをしてきびすを返し,遠回りして帰らなければなりませんでした。お使いに行かされて,二回のうち一回は遠回りしなければならなかった帰り道です。
